1 on 1 ミーティングを始めたきっかけは、Aさんとのコミュニケーションをとるためでした。通常の1 on 1 ミーティングとは少し異なる活用方法でしたが、一定の成果が出たので紹介をしたいと思います。
Aさんは、転職組として自分のいる部署に配属されてきました。上場企業の経理部も経験していた彼は、ビジネスパーソンとしての経歴は10年以上あっために中堅としての働きを期待されていました。口癖は「頑張ります」ですが、気づくと居眠りばかりしているダメ社員の典型でした。
そんな彼のサポート役を行った中で、1 on 1 ミーティングを活用した経験について紹介をしたいと思います。
自分はデータ・サイエンティストとして顧客から預かったデータを分析してコンサルティングを行う業務に携わっています。プロジェクトを複数人で分業することは珍しく、周りにサポートを得ながら一人で一案件を仕上げていくスタイルとなっています。
1 on 1ミーティングを行う経緯
転職組で10年以上のビジネスキャリアをもつAさんですが、期待とは裏腹に居眠りばかりの問題社員でした。
居眠り以上の問題として、Aさんは勝手な判断をして誤った方向に業務を進めたり、進捗報告に嘘を言って遅延を隠すことでした。
これまで数名がAさんのサポート役に任命されましたが、ことごとくサポート役とトラブルを起こしており、自分にサポートの白羽の矢が立ったのでした。
当時のAさんと私の関係は、単なる同僚であり人事評価を行う関係ではありませんでした。
まずAさんと1対1で面談を行い、これまでのキャリアやこれからのキャリアパス、自分の置かれている現状についての認識を聞いてみました。
2つの大きな問題である「勝手な判断を行うこと」と「進捗報告に時々うそを言ってしまう」点についてもヒアリングを行いました。
勝手な判断については、自分の判断は誤っておらず、Aさん自身には遂行できる能力が足りていると考えていた。それでも判断が誤ってしまうのは、最初の条件や変更した条件が自分に知らされていないからだ、というものでした。
さらに、相談したくともサポート役が忙しそうで、自分が判断して行わないとスケジュールに遅延が生じそうだったから、過去の経験に基づいて判断を行った、とのことでした。
進捗報告に嘘をついてしまうのは、確かに正確に言っていない場合もあったが、ささいな遅延で取り戻す事は可能だと思ったからで、たいていの場合はリカバリーができおり問題はないと思っている。遅れていることをとがめられることがが嫌で、思わず嘘を言ってしまったこともある。
実際のところは、勝手な判断をして大きな手戻りが発生していたり、遅延していることをAさんが認めたのが、最終〆切日の2日前で関係者がほぼ徹夜でリカバリーをしたという事実をかつてのサポート役から聞いていました。
面談して感じた事は、Aさんのコミュニケーションのスキルには問題がありそうだということでした。
Aさんは重要な判断については、きちんと確認して進めることは分かっていながらも、忙しそうにしている相手に遠慮してなのか、確認することを面倒に思ってしまうのか、積極的にコンタクトを取るタイプではありません。とにかくAさんから自主的に相談することはなさそうでした。
Aさんの人柄や最低限のビジネスマナーについては、特段の問題はないと判断しました。プロジェクトを遂行するスキルについては、基礎的なスキルは身についているのでOJTで補完していくこととしました。
Aさんには、スケジュールを守ること、相談は気軽にして欲しいこと、お互いに毎日10分間は話す時間を確保することから始めました。
初めは単なる進捗報告のみだった
始めた当初は二人とも手さぐりの状態だったので、単なる進捗報告となってしまいました。
相変わらず、相談がされないままに勝手な判断による誤った業務の遂行がなされていました。
今までのサポート役は、この段階で「なんで勝手な判断をするんだ」と声を荒げて詰め寄るやり取りをするのを見ていましたが、このアプローチはAさんには適切ではないと思っていました。
すでにアドラー心理学を学んでいる最中だったので、管理をしない管理を試してみることにしました。
管理をしない管理の試み
アドラー心理学では、「縦の関係」か「横の関係」であるかを意識します。
縦の関係とは、命令をする側とされる側、力関係の順位が明確になっている関係のことをいいます。
横の関係とは、力関係に差異はなく、リラックスした家族や友人のようなフラットな関係のことをいいます。
Aさんは、他社でのビジネスパーソンとしての実績もあり、特に縦の関係のように上から何かを言われる状況が耐えられないようでした。そして、望むべく関係は「横の関係」の構築です。従来のような管理を行うやり方では、「縦の関係」を築くことが出来ず、その関係性がAさんのトラブルの元凶でした。
幸いというか、Aさんの携わっているプロジェクトについては詳しく分からなかったので、なぜそのような分析をおこなうのか、お客さんにするように丁寧に説明してくれるようにお願いをしました。
スケジュールについては、Aさん主導で計画を立ててズレる場合もすぐにアップデートしてもらうようにしました。
アジェンダは、仮想顧客への分析内容の説明に決定したのでした。
仮想顧客への分析内容報告の効果
顧客相手の説明にも関わらず準備がいまいちだったり、未確認の数値を出してきたりとなかなか最初はうまくいきませんでしたが、自分が仮想顧客として突っ込みを繰り返すうちに、Aさんも説明するべきポイント、確認すべきポイントを整理できるようになってきました。
当初はめんどくさいと言って、なぜその分析を行うというかの説明についても、「やることになっているからやる」という説明から、ある仮定から導き出された結果必要な分析であるという具合に論理的に説明ができるようになってきました。
数値のチェックも見るべきポイントが分からずに、漫然と見ているだけで眠気に負けてしまう状態から、まず縦や横の数値の足し算と合計が一致することを確認するなど、基本的な考え方を身に着けてくれるようになりました。
ついには、Aさんから追加の提案もしたほうが良いのではと相談をされるほどに成長してくれたのでした。
1 on 1ミーティングを終えてのヒアリング
実は、諸事情によりAさんのサポート役についてはそれほど長くない期間で解消となってしまいました。それと同時に1 on 1ミーティングも終了となりました。しかし、部署は同じであることから、実際に自分のサポートについてヒアリングをしてみました。
- 1日1回の内で必ず10分は話せる時間があるので、聞いてもらえる安心感があった。
- ささいな報告はその時でよいと思い、とにかく確認しなくてはいけないというプレッシャーを感じることなく、業務に集中できた。
- 顧客への説明を行うという前提は、責任感をもって行うことができたことと自分で考える練習になった。
- 顧客への説明のほうが、サポート役や上司にする説明よりも説明がしやすかった。
- サポート役が顧客なので、とにかく細かい突っ込みで応えるのが大変だった。
1 on 1ミーティングで狙っていた、コミュニケーションの時間を定期的に確保して(今回は毎日)、とにかく少しでも引っかかることがあったら言えるようにする、という目標は達成できたように思います。
また、OJTの一環で1 on 1ミーティングを活用する際に、単に業務の進捗報告だけにしないという試みも成功したと思います。
その後のAさんは、部内の総務担当となり生き生きと活躍してくれています。1 on 1ミーティングでの経験が生きているのかは分かりませんが、受け身になりがちな管理業務を部員の作業環境向上という点で積極的に部内に働きかけてくれています。
そのAさんの上役として総務部門でも指導してくれないかという意向もあったのですが、Aさんは上がいないほうが能動的に動いてくれて、やりきる能力もあると確信していたので上役については断りました。
まとめ
業務になれないメンバー向けにOJTの一部として1 on 1 ミーティングを活用した実例を紹介しました。
- 通常の1 on 1ミーティングに比べて、開催期間は短いほうがよい。
- 進捗報告の場になりがちだが、そうならないように工夫をする。
- 「縦の関係」から「横の関係」になるような工夫が必要である。
- OJT終了後に、1 on 1ミーティングの効果についてヒアリングする。
チームメンバーへのコミュニケーションを深めるツールとして1 on 1ミーティングは有効ですが、OJTの一環として活用できる実例を紹介したので、あなたのチームでもいろんな活用方法を考えてみるのはいかがでしょうか。